『沙弥さん、お入りください』


到着した、社長室前。

日野っちが、少し哀しい目をしてそう言った。


『日野っちは?』

『私は、入らないようにと言われてます』

『そっか』



──そうしてあたしは今、社長室にいる、というわけだ。



「これはどういうことだね」


社長席に近づいて早々、あたしを見た社長が、小さな四角い紙を差し出して言った。

小さな四角い紙──それは、写真なのだとすぐにわかり。

瞬間、心臓が鈍い音を立てて跳ねた。


「……っ」


これ、兎月進学塾の近くの橋じゃ……。

その橋の上にいる、後ろ姿の男女ふたり。

紛れもない、修平とあたしだ。


何で……。


──まさかあの時。


修平の塾に押しかけたあの時、あたしに絡んできた男が……?