四人目に舞子の姿があった。凛とした表情でしっかりと前方に視線を定めながら歩を進める姿は際立って美しかった。妹尾は夢中でシャッターを切った。ケンも、舞子の佇まいに、これまで知らなかった舞子の一面を知る思いがして、見惚れてしまった。
舞子は、気おくれすることもなく十二遣徒の役割を務めた。始まる直前までは、あれこれと願い事を考えていたが、結局、母がいてケンがいる、ここ三週間の何気ない日常が永遠に続くことを願っている自分に気づいただけだった。ケンさんはお金が必要だって言ってたっけ。だったらケンさんがお金持ちになれますように。そんなことを考えているうちに十二遣徒の出番がきて、考え事をしている余裕はなくなった。
割り当てで舞子が持つことになったお盆には、魚の干物がたっぷり乗せられて、きつい臭いを出していた。
「あちゃー、大ハズレじゃん」
顔をしかめながら小声で言ったが、隣にいた高校生らしき青年に目をやると、缶詰めがたくさん乗せられたお盆を持たされている。あれはあれで、さぞ重たくて大変だろうから、大ハズレとは言えないなと自分を慰めた。
本堂の脇から出てきた十二遣徒の行列は、境内にひしめく見物客に囲まれて花道をゆっくりと歩いた。
コの字型を描く花道の最初の角を曲がったところで、舞子は前方に母の姿を認めた。
目が合うと母は笑顔で小さく手を振ってくれた。そんな母の姿を見た途端、急に眼が潤んでしまい自分でも驚いた。
視界は涙でぼやけ気味のままだったが、母の隣には妹尾とケンが並んで立っているのが分かった。
妹尾は、一眼レフカメラをこちらに向けている。
ケンの表情は見えなかったが、じっとこちらを見つめているようだ。
涙でぼやけていてよかった。ケンさんの顔がはっきりと見えていたら、照れ臭くて二秒と持たずに視線を逸らしていたことだろう。
妹尾は、構えていたカメラを下ろして写真を撮るのをやめた。
ケンと妹尾がシンクロしたみたいに、ぴったりと同じ動作でお面を被った。
嬉しさのあまり思わず笑ってしまった。
同時に、目じりから涙がこぼれ落ちた。
「ねぇ、あのおねぇちゃん泣いてるぉ、ねぇねぇ」という小さな男の子の声がどこかから聞えてきた。

舞子の出番を見届けた悦子は、儀式が終わるのを待たずに妹尾とケンにそっと声をかけた。
「じゃあ、私はこれで」
「あ、もう?」
「ええ。妹尾さん、写真楽しみにしてますから、掲載紙送って下さいね」
「もちろんです」
「ケンさん、今夜は舞子のことよろしくね」
「ああ、はい。大丈夫。心配ないね」
「食事、店の方に用意しておくから、帰ったら舞子と二人で食べてね」
悦子は、ちょっと失礼に感じるかしらと思いながらも、よかったら妹尾さんもご一緒にとは言わなかった。今夜はケンと舞子、二人だけの時間と場所を用意してあげたかったのだ。