朱美が帰ると、康平はケータイに手にベッドに座った。
 前のめりになってケータイを操作する。
 結局、朱美が『康平』と呼んでくれる以上の進展はなかった。
 それでも、康平には心臓に悪いくらい嬉しい進展だった。
 嬉しすぎて喜びを一人で抱えていられず、勇也のケータイ番号を選び、かかるのを待つ。
 一〇回の呼び出し音の後、留守番伝言サービスへと繋がった。
「もう家に帰ってるよな。カメラと一緒にケータイをコインロッカーに預けたまま帰るとは思えないし……。わかった。マナーモードにしたままなんだろ。ったく、この大切な時に」
 ベッドに横たわると、康平は「あっ」と間抜けな声を上げた。
「そういや、用事があるとか言ってたな」
 この感激は、メールやラインではなく声で伝えたい。
(仕方がない。シャワーを浴びて寝るか)
 康平は溜め息をつくと、未練がましくケータイを見つめた。