夏休み後半の昼過ぎ。
 高校二年生の浜崎勇也は、雨で濡れ続ける海沿いの道路に仰向けで横たわっていた。
 小柄で童顔な勇也は、天気予報を信じ、雨が次第にやんでいく空をデジタルの一眼レフカメラで撮影すべく、絶好の撮影ポイントを探しながら赤い自転車を颯爽と漕いでいた……はずだった。
(自転車、どこにいったんだろう)
 白い半透明な合羽の下、Tシャツとハーフパンツが雨水を吸って冷たくなっていく。お気に入りの青と白の線が入った黒色のバスケットシューズにも、雨が染み込んでいく。
 背中がデコボコするのは、背負っていたリュックのせいだろう。大切なデジタルの一眼レフカメラやケータイ電話などが入っている。
(このままじゃカメラが濡れて壊れる。死守しなきゃ)
 だが、どうすることもできない。
 ピクリとしか動かない指先。巨大な岩を担いだように体は重く、激しい痛みと熱と悪寒に襲われていた。
 暗い雨雲と叩きつける雨粒を見つめながら、勇也は自身に何が起きたのか懸命に思いだそうした。
 けれど、脳裏に浮かぶのは同級生で二人きりの親友の顔だった。長身でモテるはずの容姿でありながら、素行と誰にも媚びない態度から人を寄せつけない広瀬康平と、幼馴染の川口朱美だ。
 ストレートの長い黒髪が腰近くまである朱美は、一見清楚に見えるものの、物怖じをあまりしないツワモノだ。
(会いたいな)
 勇也は瞬きすると、ゆっくり目を閉じた。
 地面を叩きつける雨音と一緒に、悲鳴や怒声が聞こえてくる。揺りかごを揺らすようなタイミングで、打ちつける波の音が何度も雨音を消した。
 潮の香りと鉄臭さ、廃棄ガスの臭いとアスファルトの臭いが混ざり合う。
(……会いたい……)
 遠ざかる意識の中、勇也は擽ったい気分になった。
 こんな雨の中、道路に寝そべっている自分を見たら、二人ともビックリするのではないか。
(康平は怒りながらも僕の腕を引っ張って起こして、朱美ちゃんは痛いくらい力を込めて僕の髪をタオルで拭いてくれるのかな)
 クスクスと笑いたいのに、体はぐったりしたままの勇也の聴覚から、すべての音が急速に遠ざかり……。感覚が鈍くなり……。
 勇也は意識を失った。