人は様々な側面を持っている。
何かを好きになったり、気にいったり、はたまた嫌いになったり、避けてみたり。
そういった気持ちは、日々の生活の中で抱く当たり前の感情だ。
だからって、こうも極端に変化するものなのだろうか。
人は穏やかな気持ちからこんなにも急に、憎悪の感情を抱くことができるのだろうか。
僕はその日初めて、人間の本質を垣間見たような気持ちになったのだ。
人は好意を抱きながら、敵意も抱くこともできる。
そしてそんな感情の変化が、彼らにとって当たり前のように起きているのが、僕にとっては怖くて仕方がなかった。
その時からだ。僕が瞳を見るのが怖くなったのは。
誰かの笑顔の奥に、暗い気持ちが同居しているのがわかったから。
好意の裏側には、悪意が潜んでいることに気付いたから。
そのことに気付いてから僕は、人の気持ちなど知りたくなくなった。
混沌とした、入り混じった気持ちなんて知ったところで、ただ辛いだけだった。
その日を境に僕の心には、瞳を見ることに対する恐怖が刻みこまれたのだった。
それからしばらく、僕は陰鬱な日々を過ごした。
小学生の時に純粋だった気持ちが、中学生になるとこうも混沌とした負の感情に変化しまうということが受け入れられなかった。
そのせいで当時は、学校に行きたくないと思うことがしばしばあった。
そんな時、貴基と出会った。
クラスで友達がいなかった僕を心配して、声をかけてくれたのがきっかけだった。
話しかけてきた貴基の瞳を見て、驚いたことを覚えている。
貴基の瞳には、明るい感情をめいっぱい凝縮したような光がともっていた。
貴基は敵意や害意をほとんど感じさせなかった。
常にあたたかい感情で満たされていた彼の瞳は、僕に安心感をもたらしてくれた。
そうして。
貴基と出会い、自分の中の気持ちに整理がつくようになり、中学最初の一年間は幕を閉じた。
僕にとっての人生の転換点はその後に起こった。
僕の心に、大きな変化を与えてくれた女の子。
その子に出会ったのは、中学二年生になってすぐの時だった。