「だから私は、そういう人がもっといっぱい増えて欲しいと思いました。優しく振る舞うことを恥ずかしいことだと思わずに、率先してできる人。他人の立場になって物事を考えることができる、思いやりあふれる人。私が生徒会長になったら。この学校をそんな人たちであふれる学校にしていきたいです。そのためにまずは、生徒会が率先してそういう雰囲気を作っていきます。人を助けることが当たり前と思える雰囲気を、私たち生徒会が作っていきます」
そこであの子は、言葉を切って全体を見渡すようにした。
そこでふと、あの子と目が合った気がした。
相変わらずの、綺麗な瞳。
透明過ぎて、相手の考えていることが全て伝わってくる感覚。
そこには。
なんの誇張も偽りもなく、優しさにあふれた思いがこもっていた。
でっちあげじゃなく、作りものじゃない。
本気で学校を良くしたいと考えている。
そして何より、それが誰から見てもはっきりわかる。
だからこそ、体育館があの子の作った雰囲気にのまれていた。
「私のきっかけはささいなことかもしれません。ちっぽけで笑われるような動機かもしれません。それでも本気で、取り組んでいくつもりです。ですから―」
そこであの子は、深々とお辞儀をして、言った。
「清き一票を、よろしくお願いいたします」
演説を終えて、体育館に静寂がおとずれた。
内容が悪かったわけじゃない、むしろ逆だ。
中学一年生とは思えないあの子のまとう空気感が、聞いている生徒たちを現実から引き離していた。
だが、静寂はほんの一瞬で。
後から遅れて拍手が巻き起こる。
トラやんの時よりさらに大きな拍手。
それは、体育館全体が彼女を認めた証だった。
選挙で起こったとは思えないそのあまりの反応の大きさが、今期の生徒会長が誰なのかを物語っているようだった。
