「私もそこまで長く話させて頂くつもりはありません。簡単に私が立候補した理由と、これから何をしていきたいかを言いたいと思います。私が立候補した理由は、入学してすぐに、ある人の優しさに触れたからです。その人は私が落としたハンカチを拾ってくれました。『そんなささいなことがどうしたんだ』と思われる方もいらっしゃるかもしれません。でもそのとき私は感動したんです。そのときハンカチを拾ってくれた方の『落とし物を拾って届けるのは当たり前』という瞳を見て。困っている人を助けることに全くの抵抗を覚えていない、そういう人がいることに、感動したんです。当たり前の優しさに触れて、嬉しかったんです」
流れるように、浸透するようにその声は体育館に通っていく。
話し始めて数秒で、あの子は場を支配していた。
ずっと聞いていたいと思わせる何かが、あの子にはあった。
さっきまでの騒がしい雰囲気とは反対に、自然の音に耳をすませるように、体育館中の生徒が聞き入っていた。
でも、一番聞き入っていたのは僕だっただろう。
ハンカチを拾ったあの日。
あの子に出会ったあの日。
あの日のことを思わなかった日はない。
あの子ともう一度話すために、僕の努力の一か月があったのだから。
だけどあの子も、ずっと覚えてくれていたのだ。
あの日のことを〈なんてことはない普通の一日〉ではなく、〈意味を持った一日〉として認識してくれていた。
それがたまらなく嬉しかった。
