あの子の瞳、知りたくて


「それでは、二年生の天願対我くん。お願いします」
「はい。えーまあ生徒会長選挙いうことで今回話させていただきますけども、長くなり過ぎてもあれかな思いますんで、手短にいきますわ」

そんな風に、トラやんは話し始めた。
相変わらずの物怖じしない態度である。

「8歳くらいのときやったかな。母に『人の上に立つことは人を知ることである』言われたのは。なんでも、上の立場からでないと人のことを真に理解するのは難しいちゅーことを言いたかったらしいんですわ。ま、そんときはようわからんかったんですけど、最近に学年委員とか任されるようになってようやっと意味がわかったんですわ。人っちゅうもんは、立場の違う人にしか言えん悩みがあるっちゅーことを。そんで、だからこその生徒会長なんです」

ふと、トラやんの瞳が見えた。
迷いのない、強いまなざし。
だがそこから伝わってくるのは勝者の余裕や驕りではなく、高みから包み込むような雰囲気だった。
いわゆる、リーダーとなるものが発する空気感というやつなのだろう。
生徒たちも、トラやんのすさまじさを肌で感じ取っているようだった。

「生徒会長は全校生徒の代表や。つまり、生徒たちみんなの上に立つ存在ってことになる。俺はみんなの上に立つことで、みんなのことをもっと知りたいんや。みんなの話をもっと聞いて、みんなと繋がっていきたい。だから悩みがあるんなら相談に乗る。助けがいるんなら喜んで助けになる。生徒会長ちゅう立場やからこそ、全校生徒の助けになりたいんや。えー、俺が生徒会長になったら、みんなと一緒に歩んでいく生徒会にしていく!せっかく同じ学校に入ったんや、俺も生徒たちのことを知りたいし、生徒たちはどんどん生徒会を頼るようになって欲しい。そういう生徒会を目指して、頑張ります!せやからどうか、清き一票をよろしくお願いします!」

トラやんが大きくお辞儀すると同時に、割れんばかりの拍手が体育館中に響き渡っていた。
中には立ち上がって口笛を吹いているものまでいる。
すごい熱狂ぶりである。
しかし、いい演説だった。
シンプルで簡潔な内容だったけれど、それでも今の演説には、トラやんの持つ熱が詰まっていた。
あの瞳がそう物語っていたのが伝わってきた。