よく理解できずに僕は聞き返す。
「何それ、どういうこと?」
「ふふ、言葉通りよ。つまり、どんなに無駄に思えることでも、ささいだと感じることでも、どこかに意味を見出すことはできるってこと」
「……意味を見出す?」
「そうよ。あなたは今、努力が実を結ばなくて落ち込んでいるかもしれない。ひょっとしたら将来、取り返しがつかない失敗をして絶望するかもしれない。そういう時に、『自分のしてきたことに意味なんてなかった』って思うんじゃなくて、『自分がしたことにはどういう意味があったんだろう』って考えられるようになれれば、気は楽になるし、人として成長することができるわ」
母の言葉を聞いて僕は考える。
一か月の努力の末、得た結果は敗北だけだった。
自分が叶えたい願いを、僕は叶えられなかった。
トラやんこそが生徒会長になるべきで、自分はまがいものだと感じてしまった。
悲しい結果にも、潰えた思いにも、厳しい現実にも意味を見いだせるとするならば。
それは確かに、とても気が楽になる話だった。
「今すぐに意味を見出すのは難しいかもしれない。しばらくは暗い気持ちから抜け出せないかもしれない。それでも、いつかきっと、あの失敗にもケリをつけられるんだってことを覚えておいて。なんたって、意味っていうものは当たり前に存在するものじゃなくて、自分で見つけ出すものなんだから。自分が向き合おうとする気持ちがあるんなら、乗り越えられるはずよ」
そんな母からのエールを受け取って、僕の気持ちは少し回復していた。
人生で初めての本気の頑張りは、残念な結果に終わったけれど、それでも。
失敗だって次につながる足掛かりとして、僕は成長することができる。
だから今僕がやるべきことは―
トラやんの演説を聞き届けて、この一連の戦いの結末を迎えることだ。
僕が負けた戦いは、勝敗はついたけれどまだ終わってはいない。
生徒会長が決まる所まで見て、初めてそれは終わりを告げるのだ。
そう考えた途端、重かった足取りも軽くなっていた。
「いい顔になったわ。さすがあたしの息子ね。気を付けて行ってらっしゃい」
「うん。行ってきます」
生徒会長選挙の朝に、こうして僕は家を出発した。
見送ってくれた母の瞳が、いつもより輝いて見えた。
