その後は、普通に授業をこなした。
だけど、いつもはまじめに聞いている授業の内容が、その日は全く入ってこなかった。
ずっと、トラやんとの会話を思い返していた。

あの話を聞けば、誰だってトラやんが生徒会長になるしかないと思うだろう。
それくらい、圧倒されるような空気を彼は有していた。
おまけに、あの瞳。
まっすぐに、人の本質をとらえるかのようなまなざし。
人の気持ちを考え、理解しようとする目。
彼が人の上に立つべき存在だということを、嫌というほど認識させられた。

対して僕は、人の上に立つ器などでは全くない。
人を遠ざけ、人と関わることを避けてきた。
生徒会長にふさわしいはずがない。
そうだ、そうだとも。
初めからわかっていたさ、僕が生徒会長になるべきでないことくらい。
生徒会長になるべきは、トラやんのような人物だ。
人と関わろうとして、人のことを理解し、寄り添おうとできるトラやんのような人がなるべきなのだ。

でも。
それでも僕は、どうしてもなりたかったんだ。
生まれて初めて、自分のやりたいことができたのだから。
だから、だから?
それで生徒会長になって?生徒会を運営して生徒を助けられるのか?
できるはずがない、それは僕の最も苦手とするところだ。
だったら、どうして。
思考が循環し、自分が何を考えているか分からなくなる。
頭のなかがぐちゃぐちゃになり、その日は一日中悩み続けていた。

そしてそのまま授業は終了し、一日を終えた。
その日は自分にとって〈努力しても叶わないことがある〉ということを、身をもって体験した日となったのだった。