「うちの家、ああつまり天願家ちゅーのは、幼少期から人の上に立つように教えられるんや。勘違いせんといて欲しいのは、これは上の立場から人を使うことを覚えろってことやない。人の上に立ち、その下にいる者たちの気持ちや考えを知ろうとせよってことなんや。母上曰く、『上の立場からでなければ知ることのできない人の感情がある。真に人を理解するためには、人の上に立つ経験が必要』なんやと!ほんまに参るわー、母上の言葉は含蓄がありすぎる!」

けらけらと、楽しそうに笑うトラやん。
しかしその瞳からは、母を尊敬していることが伝わってくる。
母の教え、か。

「俺は愚直にしかものごとを考えられんからなあ、母上の言う通りにしてきた。クラスの代表として学年委員をやったり、部活の部長にもなったりな。そしたらまあ、色んなことが見えるようになってきた。視野が広がるっちゅーか、人の気持ちがわかるって感じやな。人は色んな悩みや苦しみを抱えて生きとる。それが人のほんの少し上の視点を持つことで、よーくわかった。強いて言うなら……せや!俯瞰するってやつやな」

うんうんと、自分で自分の言葉にうなずいているトラやん。
上手く説明できたことに満足しているようだった。
でも僕は、今の発言を聞いてざわついた気持ちになっていた。

「……人の気持ちが、悩みや苦しみがわかるって言ったな?」
「うん?せやで?」
「だったら、辛くなることはないのか?人の暗い感情を知ってしまって、自分が苦しい思いをすることはないのか?」
「そりゃあるやろ。たくさんあるでそんなん」

あまりにもさらっと、トラやんは答える。

「そういう負の感情があるからこそ、助け合っていかなあかんのやろ。苦しい思いしてるやつがいるなら助ける。困っている人がいたら手を差し伸べる。そういうリーダーになりたいし、そういう人間になりたいんや。俺は、人を知り人を助ける。そんな生徒会長になりたいんよ。だからまあ、生徒会長特権みたいなんは別に欲してへんなぁ。就職とかもよう考えてへんし。もらえるならもらっとくけどな」
「…………!」