「悪い、オレさ、黒板の文字を写し間違えてたみてぇだ。最初は確かにそのまんまノートをとったはずだった。でもほら、オレは字が汚いから、読みにくいところを消してもっかい書き直したんだ。そんで、同じように書き直したと思ってたら、少しだけ間違っちまったみたいだ……」
「そんな……」
そんな、単純なことで。
僕の、僕の今までの頑張りは!
貴基の!せいで!
「貴基!」
「ごめんっ!オレが悪かった!オレがもっと字を綺麗に書いてりゃあ、こんなことにはならなった!オレがもっと授業をよく聞いてりゃあ、間違えたことに気付けたはずだった!オレが、オレが全部悪い。すまねえ!オレのせいでお前の今までの努力を全部無駄にしちまった!」
貴基は、泣いていた。
大粒の涙を流して、ぼろぼろと。
「お前が本気で生徒会に入りたいのは知ってたのに!オレはその気持ちまで台無しにしちまった……!本当にすまねえ、オレは友達失格だ。うっ、ひっく」
貴基の瞳を覗き込むと、そこにはあふれんばかりの謝罪の念と、後悔の思いが込められていた。
嘘偽りのない、まっすぐな謝意。
ごまかしのない、純粋な申し訳ないという気持ちが伝わってくる。
その瞳を見て、我に返った。
本当に貴基のせいか?
違う、そうじゃないはずだ。
あの問題の答えをノートで確認して、疑問を抱かなかったのは僕も同じなのだから。
疑問を抱かずにノートにあるままを書き写したのだから、悪いのは僕もだろう。
もっと僕があの問題に理解を及ばせていれば、間違っていることに気付けたはずなのだから。
貴基一人が悪いことにはならない。
それに、他の教科でもっと点を取っていれば、こんなミスをしたところでトップは僕だったろう。
他の教科でカバーできなかった僕が悪い。
そう考えれば、悪いのは貴基ではない。
少なくとも、貴基一人に責任を押し付けるのは間違っている。
そのはずだ。