「まじ怖ぇ~よ。なんなんだあいつ」

昼休み。教室にはあんずさんがいるため、友達二人を中庭に連れ出し、話を聞いてもらうことにした。

「贅沢なこと言ってんじゃねーよ!」と憤慨するいつもの友達は置いておいて、もう一人、彼女持ちの友達に冷静な意見をうかがうことにした。

「あんずさんだっけ? 俺、全然印象ないわ~」

リア充とオタクの中を行ったり来たりできるタイプの彼はそう言い放つ。

確かにあんずさんはクラスで目立たない・男子と話さない・見た目も地味な印象薄タイプ。クラス替えしてまだ一ヶ月くらいしか経っていないため、俺も正直あんずさんの友達の女子たちの名前は知らない。

「校内はともかく、外でも鉢合わせんの。偶然の域超えてない?」
「相田、お前もっと自分に自信持てよ」

突然、友達に肩を叩かれ、「はぁ?」と高い声が出てしまう。何を言っているんだコイツ。

「お前は確かに中学の時はイケてなかった。しかし高校生活を二年も経れば変わるもんなんだよ」
「どういうことだよ」
「お前も女子に好かれるようになったってことだよ」
「それはない」
「オタだけど根は純粋なやつだし、見た目にも気遣うようになったじゃん。お前をいいと思う女子、そろろそ現れるって俺思ってたもん」

違う。別に俺は答えを求めているわけじゃない。女々しいが話を聞いてもらいたかっただけだ。しかもリアル女子に好かれるって。そんな天地返しな現実、実在するわけがない。

混乱している俺にいつもの友達はクソなことを言ってきた。しかも楽しそうに。

「ようやく女子に好かれたかと思えば、そいつストーカーって。まじウケる」

やめろよ! とその友達を制しつつも、なんとなく俺も心のどこかでその疑惑がわいていたのは確かだ。だっておかしいだろ、遭遇率が。完全に確変してるやろ。つけられているって思わない方がおかしいだろ。

にしては会った時、いつも堂々としているよな。

もしかしてあんずさんはメンヘラ系か? 偶然をよそおって本当に俺をつけているのか? 俺の言動を日記にでも記録しているのか? それとも彼女の妄想の中では、すでに俺は彼ピッピ、いやガチの彼ピ様になっているのか?

『相田くん、偶然だね』

そういえば俺はいつから相田'くん'になっていたんだ? 俺はあんずさんとさん付けにしているのに。呼んだことはほぼ0だが。もともと相田’さん’って呼ばれてたよな、確か。

――あーあ。あんずさんが推しのマミーナちゃんだったらよかったのに。

なーんてクズな考えをしてしまうほどに、俺は恐怖混乱雨アラレ状態になっていた。