よくよく考えたらあんずさんは俺のタイプではない。推しのマミーナちゃんとは違って強気な性格ではないし、笑顔一つで人に活力を与えられるパワーもない。ただ、きっと心が綺麗ないい子だとは思う。
そう、いい子、なんだろうけれど。
だめだ。女子は信用できない。心の中ではうーわまたワイくんと会ったキッモ! とか思っているかもしれないしな。
俺は俺の日常を繰り返すだけでいいんだ。
それでよかったはずなんだが……。
ゲーセンで遊んだ後、汗だくのまま自動ドアの前に立つ。ドアが開いた時、同じ高校の女子が……。
「あ!」
彼女も驚いたようで、目をぱちくりとさせ、俺を見た。
もしろんその女子はあんずさん。
「ぐ、偶然だね」
あえて自分からそう声をかけ、急いで店を飛び出す。あんずさん、一人でゲーセンくるタイプだったのか?
いつ偶然が来るか分からないのが恐ろしい。
日曜日、あるイベント帰りに駅前のコーヒーショップに入った。店内は混み合っていて、俺が座ると満席になったが、スマホに夢中になっているうちに客が入れ替わっていたらしい。
「あれ」
ふたつ隣の席に違和感を覚えた。ぱっつん前髪で三つ編み、古着っぽいジャンバー。どこかで見たことのあるような……。
あ、あ、あ。
ここまでくると恐怖すら覚え、ガチャン、とカップの音を鳴らしてしまった。気づくな気づくな……。そう願いながら恐る恐るもう一度だけその方向を見る。
「相田くん、偶然だね」
彼女は確かに口パクで、そう言った。