完全なる闇モードに突入した俺だったが、予想だにしないことが起きた。
「あれ? パーンってしないの?」
あんずさんは両手を俺に向けたまま、首をかしげた。意気消沈した俺だったが、あんずさんは俺とのハイタッチを待っている様子。
ビクビクしながら彼女の両手に自分の両手を重ね合わせる。ゼロコンマ一秒ほどで引っ込めたため、感触はほぼなかったが。
「相田くん、すっごく声大きかったよ。私もテンションあがっちゃった!」
どぎまぎしている俺に対して、あんずさんは思いっきり目を細めて笑った。心の闇に突然、光が差し込んでくる。やめろ、そんな無邪気な顔で笑うな!
「あの……なんでここに……」
「卓球の応援しにきた。あははっ、また偶然一緒だね」
偶然、偶然、この2文字を聞いたのは何度目だろうか。本当に偶然なのだろうか。なんで俺を目の前にしてこんなに無邪気に笑えるんだ? もしかして俺ダマされているのか? 本当はゲロ無理って思っているんじゃないのか?
「おい、お前なに女子と喋ってんだよ! この裏切り者!」
ようやくその日の試合が終わり、へとへと状態で帰路についた。しかし、友達が近くにいる前であんずさんと会話をした俺。厳しい追及を受けるハメになる。
「いや、最近謎に会うだけ」
「謎?」
「街中とか放課後とか偶然会う感じ」
正直に答えたところ、友達は「ふーん?」と意味ありげな声を出し、キラリとメガネを光らせた。
「もしかして、好きになっちゃった?」
「ちげーよ!」