彼女の後ろには仲間らしき女子がいて、嫌そうな顔で俺を見ている。
うーわ、そんな目で俺を見るな。てかなんで女子がいるんだよ! しかも全力応援してたの俺だけじゃないぞ、男子みんなノってたんだぞ!

うーわ、終わった。あんずさんにも完全に引かれた。

いやいや、大丈夫だ。別に俺とあんずさんはただのクラスメイトだ。引かれたところで別に好かれてもいないからダメージ0だ!

我流で謎のダメージ0理論を生み出したが、海が割れるかのごとく粉々になった俺の心は致死量のダメージを食らっていた。

――これだからリアル女子は嫌なんだ!


あれは中学三年のある冬の日のことだった。

バレンタインという、世の男子たちが俺もチョコもらえるんじゃね? という根拠のない期待をよせている忌々しい日。べ、別にチョコなしでも悔しくねーし、などとイキった俺は放課後になった瞬間、すぐに教室を出た。

『相田くん、待って』
『え』

ある女子に呼び止められ、急いで振り返る。クラスでもそれなりに可愛いと評判の子だった。

『はい、今日バレンタインだから』

そう言って、彼女はにこっと笑い、俺に小さな袋を差し出した。

『あ、どーも』

と、俺は別にチョコなんか興味ねーよオーラを出しておいたが。

『みんなには内緒だよ。じゃあね』

女子に免疫のなかった俺は、すぐさま彼女に惚れた。

きっと、部活で活躍しているイケてる男子じゃなくて、暗くてショボい俺なんかを見てくれる、SSR(ダブルスーパーレア)級のいい子なんじゃないか? と。

一ヶ月間、想いを秘めに秘めた俺は、ホワイトデー前日に百貨店の地下にて高いクッキーセットを購入した。そして本番当日、鼻息をこらえながら一日を過ごし、放課後トイレ休憩を経て、いざ渡そうと教室に戻ったところ……。

『なーこれってもしかして』
『どうしよう、可哀想だから義理チョコあげただけなのに。本気にしちゃったのかな……』
『付き合っちゃえばいいじゃん』
『ゲロ無理』

おまえひでぇ~、という声とゲラゲラした笑い声が教室に響く。

クラスのイケてる男女は勝手に俺のカバンを開けたらしい。昨日買ったクッキーセット入りの袋が男子から女子へ、再び男子へとパスされていた。

結局、そいつらが帰るまでトイレに閉じこもるハメになり、必死に編み出した『おかんに買った』という言い訳を使うこともなく、俺は中学卒業まで息をひそめて生活することとなった。

ちくしょう。だからリアル女子は嫌なんだ。キモいもの触れたくないものとして勝手に俺を世界から遮断しやがって。俺だって一応人間なんだ。人間なんだぞ!