しかし、学校でね、と言われても学校で話す機会はほぼない。

教室ではあんずさんは仲の良い女子たちと話しているし、俺は俺でいつもの友達とオタトーク中だ。変わらない毎日が繰り返されるだけ。偶然というスパイスが加えられようと、俺の日常、異常なし。

ただ今日は高総体の地区予選日ということもあり、クラスに運動部のやつらがいない。教室にいる人数が少ない分、あんずさんの姿がよく目に入る。

午後は好きな競技を選んで応援に行き、応援団か先生に出席ハンコをもらえば帰宅してよいとのこと。競技は市内のいくつかの高校や競技場で行われている。

俺は友達との協議の結果、隣の高校で開催されている卓球を見に行くことにした。理由はその高校の近くにカラオケがあるから。深い理由はない。

体育館後方の階段をのぼり、ギャラリーにいる同じ学校の生徒たちと合流する。体育館内は卓球台が等間隔で並べられ、たくさんの選手がせわしなく動き、ピンポン玉が高速で行ったり来たりを繰り返していた。

「なー卓球来てるヤツ少なくね?」
「みんな校内でやってる剣道行ってるみたいよ」
「まじかよ~。いつまでここいなきゃなんねーの?」

応援団がフレーフレー等大声で言っているが、テンションが追い付かず声が出ない。応援団にすかさず大声出せと注意される。

「なーなー相田。俺、いいこと考えた」
「なんだよ」
「応援団に気に入られたらさっさとハンコもらえるんじゃね?」
「はぁ?」
「早く終わらせてカラオケいこーぜ。ゲホン。いよっしゃぁあああ西高フオオオアアアイトオオオ!!」

友達がはりきって応援を始めると、応援団やまわりの生徒たちも本気を出し始めた。
前後左右を見回すと同じ高校のヤツは十人もいない。しかも男子だけ。俺も仕方なくやけくそで声を張り上げた。応援団の掛け声に合わせ、みんなでハイハイハイハイ! ウリャ、オイ! 等と叫んでいるうちに次第に楽しくなってきた。

俺らの決死の応援のおかげか、うちの高校は強豪を倒し準決勝へと進んだ。うぇーい! とみんなでハイタッチし合う。俺もまずは右にいた友達、次に後ろにいた1年と両手をぶつける。最後に左の生徒とも両手をかわそうと顔を向けた、その瞬間。

全身の血液が凍り付いた。……かのように思えた。

「……え」

俺に両手を向けていたのは、まさかのあんずさんだったから。