ふぁーあ。
慣れない早起きをしたせいで、コンビニを出た瞬間あくびが出た。排気ガスまみれの朝の空気が体内に入り、今日一日へのやる気が失われ家に帰りたくなった。しかし実際は始まったばかり。現実は厳しい。
ゲットしたものをリュックに詰め込み、学校に向かおうと自転車にまたがる。その時、キキッ、とブレーキ音が聞こえ、もう一台の自転車が近くに停まった。
自転車と女の子のシルエットが朝日によってアスファルトに描き出される。自転車に張られた指定ステッカーは俺と同じ。どうやら同学年の女子らしい。
「……くん………よ」
イヤホンを耳に入れているため、爆音の隙間からしか外部の音は聞こえない。ん? 俺話しかけられてる? いいや、同じ学年で会話する仲の女子はほとんどいない。
ここで俺は思い出した。クラス替え後、唯一まともに接触したクラスの女子のことを。
もしかして、いや、んなわけないよな。俺の高校は一学年あたり六クラスもあるし。
無視するのも悪いし、予感が当たったのか外れたのかも気になり、恐る恐る視線を上げる。目をわせなきゃOKだ。ローファー、細い足首、ひざ丈のスカート、ブレザーの裾。ゆっくりと視界にその姿が写り込んでいく。
「ひっ!」
驚きのあまり、一瞬だけ体が浮いた。
勢いよくイヤホンを耳から外す。コードの先からシャカシャカとした音が暴れまわり、必死にたぐりよせ思いっきり手のひらに収め込んだ。
まさかの本当に再びあんずさんだった。
「ご、ごめん。無視して。お、おはよう!」
「私こそ驚かせちゃったよね。ごめん」
今日のあんずさんははいつもと髪型が違う。ぱっつん前髪にポニーテール、ほほにかかる厚めの後れ毛。地味顔に軽やかな雰囲気が加えられていた。
「いやいやいや、俺がぼけっとしてたから。おかげで目が覚めたっていうか、その……」
不意打ちの偶然により脳みそが回っていない。口だけが回っていて何を言っているか自分でも分からない。完全にテンパっている。くそ、恥ずかしい。
あんずさんはそんな俺の様子を見て軽く笑う。しかし、その笑いはバカにする感じではなかったため、笑うんじゃねーよ、というもやもやした気持ちは発生しなかった。
「ここで会うなんて偶然だね。じゃ、また学校でね」
会話はすぐに終わった。コンビニに入るあんずさんの後姿を見届けてから、俺は自転車を走らせ学校へと向かった。
また、偶然だったか。