「じゃーん。これ準備してきた!」

まわりの木々が緑を失った頃。
駅前のファーストフード店にて、クラスの女友達はキラキラに装飾された封筒を披露した。

「渡せる機会あるかな?」と聞かれ、ライブ後の特典会の時にスタッフ経由で渡せる旨を伝えた。直接は無理なんだ~、とがっかりされたが、ルールだから仕方がない。

「さすが詳しいな。オタ歴長いだけあるわ」といつもつるんでる友達に言われ、「まあ、こんなかで俺が一番パイセンっすからね」とどや顔で返した。

「アイドルのライブとか行くの初めてだよ~超楽しみ~」
「相田氏がチケットの取り方のコツ教えてくれたおかげだよ、本当ありがとう」

女子二人はキャッキャと騒ぎ出す。俺も数か月間、今日という日を胸を焦がしながら待っていた。今は、楽しみと切なさが半々くらいの気持ちだ。


マミーナちゃんの脱退発表と同時にもう一つ、ある発表があった。それはMIX-CHU新メンバーのオーディションが開催されること。書類選考、面接選考が水面下で実施され、最終選考はマミーナちゃんの卒業ライブの数日後に行われたらしい。そして今日が待ちに待った、新メンバーお披露目ライブ。

『ありがとう。でも、ごめんなさい』

胸がちくりと痛むけれど、アイドルにとって恋愛はタブーだから仕方がない。そういうことにしておこう。きっと彼女は俺の知らないところで、想像できないくらいの努力と決心をして、日常を飛び出したのだから。


スマホで時間をチェックする。開場の時間が着々と近づいている。

「あ、そろそろ行こう」
「おー!」
「相田氏、待って~!」

クラスの友達たちと一緒に、非日常の空間へと走り出す。


『こんなとこで会うなんて、偶然だね』

ライブ後のチェキ会で、彼女にこの言葉を伝えたら、どんな顔をするだろうか。

今もなお、彼女の存在は日常を生きるための糧になっている。

初めて会った時からずっと、あんずさんは俺のアイドルだったんだ。



☆おわり☆