いや待て。調子に乗るな落ちつけ俺。俺なんかと遭遇したり目が合ったり、あんずさんの方が災難だ、きっと。

ださくてもっさい自分に申し訳を感じながらその日の授業を受け、ようやく放課後。帰宅部の俺はそそくさと校舎の脱出口である玄関へと向かっていた。

「あれ」

下駄箱には先客がいた。学校には遅刻ギリに行き、放課後はすぐ帰る主義。そんな俺より先に帰るやつがいるとは。しかも女子だ。

ひざ丈スカートにツインテール。

……って、まさか。

その子も俺に気がついたのか、上履きを手にしたまま振り返った。
あ、と思わず出してしまった声が、透き通った違う声と混ざり合う。

しかしあっけにとられたままの俺とは違い、彼女――あんずさんは笑顔で声をかけてきた。

「相田さんも帰り? 早いね」
「あ、まあ、うん」
「じゃあまたね」

俺のどもり気味な返事を気にもしない様子で、あんずさんは手を振り、小走りで校舎を出て行った。

「…………」

そんな逃げるように出て行かなくても。別に一緒に帰るつもりなんてさらさらないし。

俺も今日は用事があったのだが、前方にあんずさんがいるせいでペースが乱される。自転車置き場までスマホをいじりながらダラダラ歩くハメに。かなりのタイムロスだ。

しかも駅ビルに寄ったら再び自転車置き場にあんずさんがいたため、俺は入口から一番遠い位置に自転車を泊め、かつ、中で鉢合わせないようトイレにこもってから用事をこなすこととなった。

なんなんだ。一体。