拡声器を持ったスタッフが、整理番号順にファンたちを誘導する。開場までまだ時間はあるが、次々とファンたちが動き出す。みんながライブ本番を待ち望んでいる。
そんな景色の中、俺とあんずさんだけが切り取られ、違う空間にいるように思えた。
やっぱり俺はあんずさんにつけられていたのか? それとも無意識のうちに俺がつけていたのか? いくら考えても答えは出てこない。
あんずさんは着用しているジャンパーのファスナーに手をかけた。反射的に全身が緊張感に包まれる。そんな俺に構わず、彼女は一気に引き手を下げた。
「ちょっ!」
きっと上着を脱ぐだけだと思われるが、女子の着替えを間近で見るような感覚になり、なぜか必死に目をつぶった。ばさりとジャンパーを畳むような音がして、恐る恐る、まぶたを開けた。
その瞬間、体に電気のようなものが走り、息が止まった。目ん玉が飛び出るかと思った。
Tシャツ姿になったあんずさん。
その胸元にはでかでかと『MIX-CHU』と描かれていた。
「だって、私も相田くんと同じで、ミクチューのガチオタだから」
な、なんですとー!?