購買で買い物をしてから裏庭へ。「これ、この前のお礼」と言い、購入したメロンパンとカフェオレをあんずさんに差し出した。
「え、飲み物も? 私パン半分しかあげてないのに申し訳ないよ」
「この前はごめんって意味もあるから」
瞳を揺らし困った表情を浮かべる彼女に頭を下げた。
「ううん。私こそあの時は嫌な思いさせちゃってごめん」
あんずさんもぺこりと頭を下げる。
慌てて、あんずさんは何も悪くないと伝えようとしたが、「じゃあまた半分こしよっか」と言われ、「ええっ!」と大声をあげてしまう。てっきりカフェオレを半分するのかと一瞬勘違いしたが、パンだけだよな。うん。
この前と同じように二人で花壇の縁に腰をかけた。後ろで風に揺れている何らかの植物は、この前より葉っぱの数が増えていて、色づいたふくらみが顔をのぞかせていた。
あんずさんは袋から出したパンを二つに割るなり、柔らかな笑顔を浮かべ俺に差し出した。空腹絶頂期だった俺は素直にお礼を伝え、受け取った。
しかし、胸でつっかえている想いのせいか、パンが喉を通らない。懸命に飲みこんでも、味がしない。
「もしかして食欲ない? 大丈夫?」
ちびちびとしか食べていない俺。あんずさんは心配そうに顔をのぞきこんでくる。あんずさんの優しさが嬉しくて、胸のもやもやが更に大きくなる。
「この前のことは、気にしなくていいよ。私が調子乗っちゃったから……」
「俺、あんずさんのことが好きです」
「えっ?」
驚いた声がすぐ隣から聞こえた。手にしたパンに自然と力が入る。
何も考えるな。俺はあんずさんに抱いた想いを伝えたかっただけだ。なんの見返りも求めていない。
これが、あんずさんからもらった笑顔や言葉に対する、俺なりの気持ちなのだから。
とは思ったものの、心のどこかではあんずさんも俺を想ってくれているんじゃないかという期待もしていた。付き合うこととか全然想像できないけれど、今よりも心の距離が近くなれたら幸せだ。
恐る恐るあんずさんの様子を見る。彼女は食べかけのパンを手にしたまま、下を向いていた。そして、悲しそうな声でつぶやいた。
「ありがとう。でも、ごめんなさい」
――ああ、やっぱり俺はリアル女子にとって害悪な存在でしかないんだ。
「そ、そうだよね。突然変なこと言ってごめん。俺、友達と約束してるし教室戻るわ」
うつむいたままのあんずさんを置いて、俺は静かにこの場を去った。
変わりたいと努力したところで、俺なんかじゃ結局ダメなんだ。あんずさんが俺なんか好きになるわけないのに、完全に調子に乗っていた。たくさんのあんずさんとの偶然は、本当にただの偶然で、運命的なことを感じていたのは俺だけだったんだ。
「あはは……」
でもいいんだ。あんずさんのつまらない日常をほんの少し面白くさせることはできたんだ。それで十分だ。
ちくしょう。
校舎の隅っこにあるトイレの個室にこもり、パンを口につめこんで嗚咽をこらえた。