「今日あんずちゃんいねーじゃん。なんで?」
「さぁ。俺に聞かれても」
しかし残念ながら、次の日あんずさんは学校に来なかった。くそう、勇気をもって話しかけに行こうと思った矢先にこれだよ。とことん俺は持ってない。こんな偶然はいらん。
「あんずちゃんいないからって、そんな寂しがんなよ」
ニヤニヤした友達に肘で突っつかれる。
「まあ、寂しいね」
素直な想いが口からこぼれた。
俺は自分だけじゃなくて仲のいい友達にも素直になれなかった。友達の意見に耳を傾けていたら、もっと早くに自分の本心に気づけたかもしれなかったのに。
バカにされると思い緊張したけれど。
「お、おう! 相田、ファイト!」
友達は動揺しながらも、力強く俺の肩をぶっ叩いた。いてぇ。
あんずさんが教室に現れたのは二日後。心なしか痩せたように見える。体調でも悪かったのだろうか。顔色はいいけれど。
昼休みになり、いつもの女子たちと話しているあんずさんのもとへ近づいた。俺に気づいたあんずさんは、いつもの笑顔ではなく、驚いたような顔で俺を見た。
――うーわこの前めっちゃ拒否したくせに今さらなんだよ。別にライン交換とか社交辞令だし、本気にするとかマジきんもー。
そんなセリフがあんずさんボイスで脳内再生される。違う、そうかもしれないが、違うと信じたい。負けるな俺。
「この前、パン代払ってもらったから、その、購買で何か買うよ。おごってもらって申し訳ないし、その、俺今日小銭いっぱいあるし……」
陰キャ口調丸出しな俺。あんずさんの取り巻きの女子たちは完全に引いている。ああ逃げたい。しかも本当は万札しか持ってない。恥ずかしい。
――マミーナちゃん、オラに力を!
興味本位なだけの視線や、冷ややかな表情をまわりから浴びながらも、俺はあんずさんだけを見つめた。
「じゃあ、お願いしちゃおうかな」
あんずさんは笑顔でそう言い席を立った。全身の骨が抜けたような感覚に陥ったが、気を確かに持ち教室を出た。