転機が訪れたのは突然のことだった。

数日後、SNSでマミーナちゃんからの卒業メッセージが発表された。
内容は、突然の脱退への謝罪や、ファンの皆への感謝、そして……。

『あたしは学校で居場所が無くて、クソみたいな日常を変えたくて、思い切ってアイドルの道に飛び込みました。アイドルになってからは、毎日歌って踊ってファンの方と触れ合あって毎日が楽しいものに変わりました。でもある時気づいたんです。本当は日常じゃなくて、自分を変えたかったんだって。嫌いだったのは日常じゃなくて、ネガティブでひきこもりだった自分自身だったんだって』

『ファンのみなさんやスタッフ、メンバーのおかげであたしは変わることができました。そしてもう一つの夢ができました。アイドルとしてのあたしを応援してくれたみなさんには申し訳ないけれど、これからはその夢に向かって走りながら、いちファンとしてMIX-CHUを応援しようと思います。みなさんも引き続き応援よろしくお願いします!』

今後の進路について具体的にはされていないが、ネットでは服飾関係の専門学校に行くではないかと予想されていた。確かにマミーナちゃんはオシャレだし、衣装のアイデアも彼女が出している。

来月行われる大きなライブホールでのツアーファイナルが、彼女の卒業ライブとなることも発表された。そこは普段有名アイドルやバンドがよくライブをするホールで、MIX-CHUが目指していた大舞台。もちろんチケットは確保済みだ。

「うぅ……マミーナちゃん」

メッセージを見て、たくさんの感情がわきあがり涙が出た。

――本当は日常じゃなくて、自分を変えたかった。
――嫌いだったのは日常じゃなくて、自分自身だった。

なんだよ。マミーナちゃんも、もともとは俺と同じだったのかよ。ひきこもりからたくさんの人を元気にさせられる存在になったなんて、本当にすごいことだ。

俺がこんなんになったのは元の性格もあるが、中学時代の暗黒歴史の影響が大きい。オタであることをバカにされて、女子に気持ち悪がられる。自分がこれ以上傷つくのが怖くて、事あるごとに『俺なんか』と言い訳してすぐに諦める。

なのに。あんずさんは楽しそうに俺と接してくれた。どの偶然の時も俺に引くことはなく、笑顔を見せてくれた。つまらないはずの毎日に突然現れた天使みたいな存在だった。

逆に俺はあんずさんに何も伝えられていない。カフェオレすら渡せなかった。

それはなぜか。アイドルオタクであることがバレて嫌われたくなかったから。自分が傷つくのが怖かったからだ。もしかしたらあんずさんは受け入れてくれるかもしれたのに。結果、あんずさんを悲しませてしまった。

俺だっていつまでもこんな嫌いな自分でいたくない。あんずさんの笑顔が見たい。もっと偶然が来てほしい。あんずさんと一緒にいたい。

そう思うと、マミーナちゃんへの気持ちも変化してきた。脱退発表があった時はふざけんなと思ったが、改めて考えると俺はマミーナちゃんによって救われていた。たくさんの明るさをもらい、自分のパワーにした。今度はマミーナちゃん自身の夢を応援したいと思った。

少しずつ、一歩ずつ、俺も変わっていきたい。