悲しかったし、悔しかった。みんなにバラされバカにされたことはもちろん、まだ売れていないってだけでMIX-CHUがバカにされたことも。全部。

でも、その感情はマミーナちゃんがかき消してくれた。お小遣いをはたいて初めて参加したチェキ会。マミーナちゃんと対面できた嬉しさで感極まり涙が出た。そして会えた嬉しさと、MIX-CHUをバカにされて悔しかったことを彼女に打ち明けてしまった。

『おいおい泣くな! そんなの気にすんな! あたしが頑張って絶対ミクチュー有名にして、そいつら全員見返してやるから! なっ!』

マミーナちゃんは男勝りな口調ながらも、華やかな笑顔でそう言い放つ。俺も全力で応援することを約束した。

それからもチェキ会や握手会で軽い会話を繰り返すうちに、彼女は名前を覚えてくれて、おっまた来たな~! といつも笑顔で俺と接してくれた。

俺にとってアイドルの現場は非日常だ。懸命に歌って踊る彼女たちから、たくさんの元気をもらう。マミーナちゃんの笑顔を見ると、明日からも頑張ろうという気になる。つまらない日常をやり過ごす糧になる。

そんな俺の密かな楽しみは気の知れた人以外に知られたくない。もともとクラスでじめっとした存在だった俺、アイドルオタクという肩書がついたせいでキモイキモイと言われてきた。ホワイトデーの日、片思いをした女子にゲロ無理と言われたのもきっとそのせいだ。同じく気になっているあんずさんにも、もちろん知られたくない。

吹き込んできた風が目にしみて、下を向いた。空の中心付近にある太陽があんずさんの足元に小さな影を作っている。それは微動だにしない。

お互い無言のまま、どれくらいの時間を過ごしたのだろう。昼休み終了5分前のチャイムが鳴った。

「ごめん。プライベートにまで入り込まれたくない」

そう伝えると、「そうだよね……ごめんね」という悲しいトーンの声がした。心に痛みが走った。

いたたまれなくなり、俺は購買の袋を片手に走って逃げた。あんずさんに買ったカフェオレは渡せなかった。

まあ、俺がマミーナちゃんを応援したところで、結局彼女は脱退してしまうのだが……。