俺の好きなMIX-CHUは、もともとライブハウスやイベント中心に活動するいわゆる地下アイドルだった。今ではメジャーデビューを果たし、深夜の音楽番組にも出始めるほどになった。しかし、一般層への知名度はまだ低く、マイナーなアイドルであることに変わりはない。

そのMIX-CHUのアーティスト写真だったらまだしも、見られたのはマミーナちゃんとのツーショット。キラキラした笑顔のマミーナちゃんと緊張でガチガチな俺。どこからどう見てもカップルの写真ではない。完全に現役アイドルとキモいオタクの構図。

あんずさんがMIX-CHUを知っているかは謎だが、知り合い以外に見られたくないものだった。

なぜなら実は一度だけ俺がMIX-CHUオタだとバレれ、ひどい目にあったことがあるからだ。

中三の夏頃、有名どころからマイナーどころまで複数のアイドルが出るイベントがあった。MIX-CHUは出演アイドルの中では知名度が低いため、応援の意味も込めて俺は参戦した。そのイベント会場で、まさかのクラスの上位グループにいる男子と鉢合わせたのだ。その男子たちは同じイベントに出る国民的人気アイドルを目当てに来たらしい。

その男子たちは、俺が着ていたMIX-CHUのTシャツをバカにした顔で指さした。

MIX-CHUって何? 今日出るの? 俺知らねーよ。どーせ可愛くねーだろ。てかお前キモいなまじ。そんなよく知らないアイドルハマって何が楽しいの?

悔しい思いをしたものの、クラスを牛耳っている存在の彼らに逆らってはいけない。暗い性格の俺はただでさえクラスの端っこに追いやられているため、いじめに発展する可能性もある。

仕方なく無言でその場をやりすごし、ライブで思いっきり発散した。マミーナちゃんが笑顔で歌って踊っているのを見たら、バカにされたことがどうでもよくなった。

しかし、現実世界である教室でみんなにバラされてしまった。

『ハァハァ言いながらサイリウム振り回してたぞ、コイツ』
『なーオタ芸やってみろよ!』

キャーきもーい、と女子が悲鳴を上げるのに呼応するように、男子たちは俺を罵っていく。ちなみにMIX-CHUはサイリウムじゃなくてスマホのライトを振って応援するのが基本だ。見てないくせに嘘を言うな。