「はい。大きい方どうぞ」
「ありがと」

植え替えられたばかりの花壇の縁に腰をかけ、あんずさんからパンを受け取る。さすがに教室や中庭だと誰に見られるか分からないため、人気の少ない裏庭にやってきた。

俺の凹みの原因を話せるような間柄ではないから、授業の話など無難な話題で時間を過ごす。

会話の途中であんずさんはふふっ、と突然笑い出した。どしたの? と尋ねてみる。

「や、相田くんと何度目かなって」
「え」
「偶然が重なるの」
「あ、ああ」

相槌を打ち、パンを小さくちぎって口に入れる。隣であんずさんもパンにはむっとかじりついた。

本当に偶然なのか問題は置いておいて。あんずさんとの二人きりの空間は居心地がよかった。もしかしたら、あんずさんも同じ気持ちでいるのかもしれない。

「私ね、高校入って本当毎日が同じで。ずっと同じ友達とつるんでるし、同じ趣味の人もいないし、勉強もやる気出ないし、なんだかなーって感じだった。でもちょっとだけ面白くなっちゃった」

相田くんのおかげかな、と続けて、彼女はえへへと笑う。五月の爽やかな風が吹き込み、木々の緑とあんずさんのぱっつんな前髪を揺らした。

「そ、そうなんだ」

初めてあんずさんの話を聞くことができた気がした。あたりさわりのない世間話ではなく、あんずさん自身の。

彼女も日常はつまらないもの、という認識でいたんだ。俺と同じだ。胸がじんと熱くなった。

そういえば、俺もあんずさんも、ルックス◎コミュ力◎承認意欲◎なクラスの上位層が牛耳る教室で、お互い同性かつ狭いグループ内で生きている。抜け出したいとは思っていないが、心のどこかで何らかの刺激を求めているのかもしれない。

俺もあんずさんと偶然会う前は、何もない毎日過ごしてたかも。そう伝えると、あんずさんは首を傾げた。

「相田くん、割と楽しそうだよ」
「いやいや」
「いつも教室の後ろで友達とわいわいしてるじゃん」
「え。聞こえてたの? うわぁ~」

どうでもいいガチャ報告や声優情報の共有など、あんずさんの席まで聞こえていたのか。しかも俺もゲームはするがハマり度は人並みだ。どっちかというと友達の方のガチ趣味だ。とは言え俺も同類だよな。恥ずかしくて胃が痛くなる。