その日の俺はガチ凹みしていた。なぜならMIX-CHUから俺の推しのマミーナちゃんが脱退することになったからだ。理由は学業を優先するためとのこと。
ああマミーナちゃんに捧げた愛情は全て水の泡になってしまうのか。あの一撃必殺な笑顔を拝めなくなってしまうのか。これから俺は何を楽しみに生きていけばいいんだ!
「お前今日元気ねーな」
「まーな」
お前にはあんずちゃんがいるだろ、と肩を叩かれる。しかしマミーナちゃんのことは、リアル女子とは別次元の話だ。しかも理由は学業か……。おかげで勉強する気に全くなれない。
魂が抜けたまま午前中の授業を終え、購買へ向かう。棚の奥にあったメロンパンが目に入り、買おうと手を伸ばす。
「あれ」
最後の一つだったメロンパン。俺の横から小さな手が伸びてきた。同時につかんでしまい、両端から引っ張られた袋がぴんと張った。
「ごめんなさい。どーぞどーぞ……って、相田くん?」
「あ、あんずさん!」
こんなテンション低い時に偶然が来てしまった。
「俺違うのにするよ。あんま食欲ないから」
「いいよいいよ! 私もそんなないから」
袋を二人でつかんだまま譲り合いをしたが、結論は出ない。もう食わなくても大丈夫かなとさえ思えたが、人間腹は減るものでぐーぐーお腹は鳴っていた。
「相田くん顔色悪くない? 大丈夫?」
「まあ」
「もし全部は食べるのしんどいなら、半分こしようよ」
返事をする前に、私が払うから、と言ってあんずさんはパン片手にレジへ向かった。
パンを半分こ? しかもおごってくれるのか?
ようやく俺は目が覚めた。あんずさんとパンを取り合いをして、あげくは買わせている状況。何をしているんだ俺は。
ありがたいことに彼女の分の飲み物を買うという考えが浮かんだ。しかし何を買えばいいんだ? そういえば前二人でカフェ行った時にカフェオレ飲んでたな。あんずさんがパンを買っている間、意外なことに俺もテキパキ頭と手を動かすことができた。