その機会は意外にもすぐ訪れた。
月曜日の朝。教室に向かう途中の階段であんずさんと鉢合わせた。俺を見るなり彼女は口角を上げ嬉しそうな顔になる。朝の憂鬱さが少しだけ晴れる。
――努力した分だけ自分は変われるんだよね。
「おはよう」
思い切って自分から挨拶してみた。
「おはよ」
あんずさんもまた笑顔で応えてくれた。俺も自然と頬が上がる。すぐ感情を表に出せる性格ではないため、ぎこちない笑顔になっていると思う。だけど、嬉しいのは確かなことだ。
「なーなーお前ストーカーと仲良さそうじゃん」
「ストーカー言うな。違うから」
朝のシーンは友達にばっちり見られていたようだ。めんどくさい追求を受けてしまう。しかも隅っことはいえ教室内で。あんずさんもいるのに。
早く話を終わらせたかったが、友達は食い下がってきた。
「ふ~ん。仲いいことは否定しないんだねぇ」
核心を突かれ、「ちょ、おい!」と大声が出てしまった。
その声はざわついた教室内で妙な響きを持ち、クラスが静まりかえった。やばい。慌てて咳ばらいを数回してごまかす。
まもなく何もなかったかのように教室が再び話し声に包まれる。しかし、あんずさんは俺を見ていた。もちろん目が合う。
彼女はにこっと微笑んでから友達との会話に戻っていった。
「なー今のなんだよオイ! あんずちゃんだっけ? マジでお前のこと好きなんじゃねーの?」
ボリュームの大きなひそひそ声で友達は興奮しだす。俺も一瞬だけ向けられた笑顔に驚き、言葉が出てこない。
『お前も女子に好かれるようになったってことだよ』
本当にこれは、まさかのまさかの展開か?