あ~くっそ眠い。
体育の時間、眠気によりふらふらな俺は、先生に断りを入れて保健室へ行くことにした。
「あ、体育の時に頭がぐらぐらして、その……」
しどろもどろで保健の先生に事情を伝え、ベッドを貸してもらう。すぐに心地よい睡魔が襲ってくる。
「今から用事あって職員室に行くから、出る時声かけてね」
「はーい」
よっし。先生がいなくなった。これでパーソナル空間でゆっくり眠れる。しかし、再びうとうとした時、扉が開く音がして目が覚めた。
聞こえたのは、女子二人の声。
「あ、先生いない。職員室か……」
「ベッド使っちゃいなよ、私が先生に言っとくから」
「うん、ありがと」
「じゃあゆっくり休みなね」
二人のうち一人は聞きなれつつある声だった。
足音が近づいてくる。俺のベッドは使用中の札をかけたので侵入されることは無いが、鼓動がうるさくなり息をひそめた。隣のベッドがきしむ音がした。
ああちくしょう、寝れねーよ。
よりにもよって再び、偶然の、あんずさんじゃねーか!
目を閉じて心を無にしようと踏ん張った。しかし、密かに持ち込んでいたスマホが手元で震えた。びっくりしてスマホが手から滑り落ち、床へと落ちる。隣のベッドから人が起き上がる音がした。ああ、万事休す……。
「す、すみません」
あんずさんであることに気づかないふりをして、ぼそりとついたて越しの人物に謝る。それから急いでベッドの下へ手を伸ばし、スマホを拾った。
「あれ。もしかして、相田くん?」
無事、身バレした。
「あ、ああ……」
「具合悪いの? 大丈夫?」
しかも、ついたてからひょこっと顔を出してきた。飛び起きたのか前髪を乱したまま、心配そうな表情を向けてくる。
「や、ちょっと寝不足なだけで」
そう伝えると、あんずさんは軽く目を細め、照れたような笑顔を浮かべた。
「実はわたしも。偶然だね」
本当に偶然なのか? 今日は男女とも体育館での授業だったから、俺が抜けたのを見て、つけてきたのか? やっぱり俺のストーカーなのか?
いや……そんなことは考えたくなかった。
次、あんずさんとの偶然がいつ来るのか、楽しみにしていた俺がいたから。そして、久しぶりの偶然が、嬉しかったから。
しかもよくよく見ると、あんずさんはMIX-CHUのポナミンにどことなく似ているような気がする。グループの中で目立たないし美人ではないけれど、癒し系で安心感をくれるような存在。
いや待て。俺の推しはマミーナちゃんだ。急にポナミンの好感度が爆上がりしたが、そんな簡単にマミーナちゃんへの愛が薄れることは無い。
突然の推し変の予感を払拭すべく、スマホでマミーナちゃんの画像を見てやりすごした。ふぅ。