「おかしいなぁ。絶対来ると思ったのに」

そう悔しがる友達に「ほらな。ストーカー説立証ならず」と嫌味っぽく伝える。

「お前、本当は期待してたんじゃねーの?」
「してねーよ」

否定はしておいたが、本心ではないような気がした。おかしいぞ俺。あの時、あんずさんと一緒に体育祭を楽しんでいる自分の姿を想像したのは確かなことだ。

しかし、期待なんかするだけ無駄だ。所詮俺はクソミソな存在だ。調子に乗って、簡単にくじかれ、地の底に落ちハートブレイク。その循環は二度と味わいたくない。


これ以上友達から突っ込まれないよう、HR終了後そそくさと下駄箱へ向かった。

下駄箱には俺以外誰もいない。がっかりなのか安心なのか、正体不明なため息が漏れる。

スニーカーを履き、学校を脱出しようとした時、パタパタ、と小走りな足音が近づいてきた。俺の後ろでその音は止まった。

なぜか鼓動が早まっている。

――別々の競技になっちゃったね。
――卓球頑張ってね。私、応援行くから。

あんずさんの声が脳内再生される。ソフトボール頑張って、くらいの言葉は俺でもかけられるはずだ。いつもクソな俺と顔を合わせさせてしまって申し訳ないし、借りは返したい。俺だって一応ハートを持った人間なのだから。よし、きっとできる。

思い切って俺は後ろを振り返った。

「えっ!?」

クラスで見たことのある名前の知らない女子がそこに立っていた。しかも、突然振り向かれてビビったのか、やっぱり軽く悲鳴を上げられる。

「あ、さようなら」

一応同じクラスだと思われるし、挨拶をした後、急いで逃げた。

あーくそ。なぜ俺はこんなにも惑わされているんだ? 偶然、よく会うだけの関係なのに。もともとクラスで喋ったことはなかったから、偶然が無ければ縁がないまま一年を終えるはずだったんだぞ。

『相田くん、すっごく声大きかったよ。私もテンションあがっちゃった!』

だけど、あんずさんは俺を拒否することはない。いつも楽しそうに俺と接してくれる。おかげで一緒にいると安心して、別れた後は寂しい感情が生まれる。上手くコミュニケーションが取れなくて申し訳ない気持ちにもなるが。

確実に俺の中であんずさんの存在が大きくなっている。正直に言うと、さっき振り返った時も、あんずさんに会えるんじゃないかと思っていた。

もしかしたら、俺はあんずさんとの偶然を心待ちにしているのではなかろうか。