四月某日。友と別れた俺は、某デパートにて一人買い物をしていた。

色とりどりのイケてる男女たちが左右を通り過ぎていく。きっと俺の姿は目に入らないか、奇跡的に視界に入ったとしても『いるいるクラスにああいう地味でキモいオタク風なヤツ』と認識されるだけだろう。

CD屋や靴屋をふらついた後、雑貨屋に足を踏み入れた。店内BGMはマイナーなアイドルソング。オタク系やサブカル系が集うこの店は、俺みたいなヤツも景色に溶け込むことができる。

おもしろTシャツやアニメ系グッズを眺めた後、ふと大事な写真を入れる手帳みたいなものがないかなと思い、まわりの棚を見回した。
その時だった。

「……あ」

斜め後ろのぬいぐるみコーナーに、ある女子の姿を見つけた。
その子も俺に気づいたらしく、まっすぐな視線を俺へと向けた。

彼女は買い物をしている男女の間をすり抜け俺に近づいてくる。ぱっつん前髪に三つ編み、薄手のジャンバーにロングスカート。イマドキorオタク、どっちともとれる身なりをしていた。

「相田さん、だよね!」
「あ、そ、そうだけど」

彼女は透き通った高めの声で俺の名前を呼ぶ。どもりながらも俺も返事をする。しかし誰だっけ。知ってることには知っているが、肝心な名前が出てこない。

「あ……クラス替えしたばっかだしさすがに覚えてないよね。私、山吹です。同じクラスの」

彼女は自己紹介をした後、軽く微笑む。その苗字と表情により、散らばっていた記憶のかけらがパキーンと集結する。

「えと。山吹……あんずさん!」
「そうだよ! 覚えててくれたんだ!」

クラス替えして早3週間。女子の名前なんかほとんど覚えていないが、その特徴的な名前は俺の脳みそにデータ格納されていた。

彼女の表情はぱっと明るくなり、俺はほっと胸をなでおろした。

「こんなとこで会うなんて本当、偶然だね!」
「そ、そうだね」
「じゃあ私行くね。また学校でね」

あんずさんは俺に笑顔を向けた後、三つ編みを揺らしながら店の奥へと去っていった。

まさか休日にクラスメイトに会うなんて。しかもこれがあんずさんとの初接触。むしろクラスの女子と連絡事項以外で会話したの久々かも。会話になっていたかは分からんけど。

――本当、偶然だね!

確かに、偶然だったな。