「渚」
約束の時間ちょうどに、渚は改札に現れた。

すぐに目が合ったけれど、私は立ち上がったっきり足がすくんで動けなくなった。

ツカツカと近づく渚。
私の心臓は大きく鼓動を打つ。

「樹里亜」
目の前まで来て立ち止まった渚は、真っ直ぐに私を見て名前を呼んだ。

「渚・・・」
次の瞬間涙が溢れ、彼の肩に頭を乗せた。

「バカヤロウ」
絞り出すような言葉。
きっと今、渚は怒っている。

「ごめんなさい」
必死に涙をこらえながら言った。

「嫌だ。許さない」
渚も涙声になっている。

私は渚に手を回し、渚もギュッと抱きしめてくれた。

私達はどの位そういていたのだろうか、
懐かしくて、
心地よくて、
できることならずっとこうしていたい。
しかし、通り過ぎている乗降客の視線が気になりだした。

「とりあえず、おばさんの家に行きましょう」
私は渚の手を引き歩き出した。