診察後、
「みのりさんは、介護の為に帰省しているんですよね?」
凄くお世話になってしまい、申し訳ない気持ちで尋ねた。

「母の介護で帰省中なんだけど、実際のところ別居みたいなものなのよ。子供も2人とも家を出ているし、主人も忙しい人で、私がいなくても大丈夫なの」
フフフ。
と笑ってはいるけれど、なんだか寂しそう。

みのりさんには息子さんが2人。
社会人として働く長男と、今年大学に入学し家を出た次男。
ご主人は沖縄で医師をしているらしい。

「私も、下の子は美樹にとりあげてもらったのよ」
へえー。
私もそうなれるんだろうか?

「育児ってね、生んでからが大変なのよ。今はとっても大変な気がしていると思うけれど、まだまだだから」
なんだか脅されている感じ。

「やっぱり大変でした?」
「そうね。私は上の子を二十歳で産んだの。若かったし、好きな人の子供だったけれど、大反対されての結婚でね。結局上手くはいかなかったわ」
「離婚したんですか?」
「ええ。その後5年ほどして今の主人に出会って、子連れで沖縄に嫁いだの」
「へー。ご主人と息子さんは上手くいったんですか?」

なぜか、そこが気になった。
血の繋がらない親子って、人事ではない気がして、
聞かずにはいられなかった。

「血は繋がらないくせに、2人はとても似ていてね。小さい頃は周りがうらやましがるくらい仲良しだったの。8歳下の弟が生まれても、上の子の方が主人と仲良しだったわ。でもねぇ・・・」
「でも?」
「子供は子供なりに気を遣っていたのね。大学を卒業する頃になって、沖縄には帰らないって言い出したの。主人は息子が帰って来てくれて一緒に働けると思っていたから、ショックが大きくてね・・・今は、音信不通」
えっ。
音信不通って、穏やかではない。

みのりさんは懐かしそうに育児の話をしてくれた。
子育ては苦労が多いけれど、その分楽しみも多い。
折角授かった命だから、できれば生みなさい。
そう繰り返す。

「息子さんに会えないのは辛くないんですか?」
「まあね。バカ息子でも、おなかを痛めた子供だから・・・会いたいわね」
ちょっと遠い目をしたみのりさん。

「でも、会いたいのは主人も一緒なの。どんなに厳しいことを言っても、6歳からずっと育ててきた息子をかわいく思わないはずはないんだから」
なんだか、ご主人がかわいそう。