「樹里亜、こっちよ」
病院の社員食堂で、母さんが手を振る。

はいはい。
幾分駆け足になりながら、窓際の席に駆け寄った。

「ごめん。お待たせ」
急患で、約束の時間を20分ほど遅れてしまった。
「いいのよ、仕事でしょ。日替わりのランチを頼んだけど、よかった?」
「うん」

すでに、テーブルにランチが並んでいる。
母さんと食事なんて・・・久しぶり。

「どうかしたの?」
母さんが急に呼び出すなんて珍しい。
「たまたまこっちの方に出かける用事があったから。それに、あなたの顔も久しく見てないし」

ウッ、痛い一言。

「なかなか帰れなくて、すみません」
嫌みっぽく言ってしまった。
「別に、仕事だから仕方ないけれど」
おっとり型の母さんは私の言葉を気にする風もなく、
「でも、たまには会いたいわ」
真っ直ぐに言われると、私の心が痛んでしまう。

私だって、母さんが嫌いなわけじゃない。
でもねぇ、色々と複雑な事情があるから。
なかなか素直にはなれない。

他愛もない会話をしながら、
「で、家の方は変わりないの?」
何気なく聞いた。

すると、突然母さんが箸を置いた。
「何?どうしたの?」
何かあるんだなと感じた私は、箸を止めることなく母さんを見た。

「昨日、梨華が酔っ払って帰ってきてね。玄関で大騒ぎしたものだから、お父さんが怒って・・・」
「それで?」
「お父さんは怒鳴り散らすし、梨華は玄関で吐き出すし・・・もう大変だったわ」

ははは。
思わず笑ってしまった。

「笑い事じゃないのよ」
「ごめんごめん」
でも、いかにも梨華らしいな。