一通り施設内を見て回った私は、庭の片隅にあるベンチに座りポケットから携帯を取り出した。

とにかく、部長に電話しなくちゃ。
このままじゃ、無断欠勤になってしまう。

プププ プププ。
あー、緊張する。
きっと怒っているんだろうな。
コールする間も、胸のドキドキが止まらない。

「もしもし」
不機嫌そうな声。

「竹浦です。突然ですみませんが、しばらく休職をお願いします」
前置きも何もなく、伝えた。
不思議なことに、部長も驚いた様子はない。

『院長は知ってるのか?』
「多分、母が話したと思います」
『はぁー』
部長の溜息が聞こえた気がした。

『知らないぞ。殺されるぞ』
本当に、医者らしくないことを言う人だ。
でも、そこが嫌いになれない。

私はすでにカルテも整理して、書類も作成済みであると伝えた。
「休職届はデスクに入れてありますから」
『そんなものまで用意していたのか・・・』
などと、ブツブツ言う部長。

『どうなっても、俺は知らないからな』
捨て台詞のように言われた。
大丈夫、覚悟はしている。

そして、電話を切ろうとしたとき、
「いいか、みんな待ってるから。いつでも戻ってこい」
ぶっきらぼうに言われた言葉に、涙が溢れた。