樹里亜がいなくなった日、俺は深夜まで大樹先生と過ごした。
何を話すわけでもなく、ただ顔をつきあわせた。
その間も、俺たちは交互に樹里亜に電話する。
とにかく出てくれと思いながら、繋がらない電話をかけ続けた。

気がつけば、0時を回った。

「帰らなくていいんですか?」
別に他意はなく、日付が変わりますよと言ったつもりだった。
「帰って欲しいのか?」
「別に・・・」

この人は、このまま居座るつもりだろうか?
まだ俺が何か隠しているとでも思っているのか?

その時、
プププ  プププ
大樹先生の携帯が鳴った。

「もしもし」
不機嫌そうに出る様子に、もしかしてと身をに乗り出した。
「下の妹だよ」
電話から顔を離し説明する。
「うん。・・・うん。で、母さんは?ああ。・・・えっ」
電話をしていた大樹先生の顔が凍りついた。
「分かった。もう少ししたら帰るから」
そう言って電話を切る。

そして、黙って俺に近づくと、
「バカヤロウッ」
俺の襟元をつかみ、締め付けた。
状況が理解できない俺は、ただされるがまま。

「お前、樹里亜の病気のことは知っているよな」
「ええ」
ずっと付き合ってきた病気だ。一緒にいて知らないはずがない。
「今体調がよくないのも分かっているよな」
「はい」
当たり前じゃないか、だからこんなに心配しているんだ。
「だったら、だったら何でっ」
唸るように言い、放り投げるようにしてソファに飛ばされた。

ドンッ。
ソファーに背中を打ち付け、さすがに俺も睨み付ける。

「一体どうしたんですか?説明してください」
あくまで淡々と、俺は尋ねた。
「妊娠・・・したらしい」
はああ?

そんなバカな。
ちゃんと注意はしていた。
そんな事がないように、気をつけて・・・

「しまったって顔だな」
挑戦的な言葉をかけられた。

でも、否定できない。
子供ができた事を素直に喜べる状況ではない。

「どうするんだ?」
挑んでくるような口調。

その時、俺はすべてを投げ出す覚悟をした。
もう、ここににはいられない。
救命医としてのキャリアも、仕事も、すべて失ってしまうんだろうと確信した。
それもみな、俺が招いたことだ。