「止めろ。土下座なんてされたら、俺が悪者みたいだ」
本当はもっともっと言いたいことがあるはずなのに、彼を見ていると言えなくなってしまう。
それはきっと、彼の潔い態度のせいだと思う。

逃げようとも、誤魔化そうとませず、言い訳もしない。
俺の知っている高橋渚はそんな人間だ。

「で、樹里亜と何があったんだ?」
「何と言われても、僕にも心当たりがないんです」
「ないわけないだろう。じゃあ、樹里亜はどこに行ったんだ」
「・・・」
高橋渚は黙り込んだ。

樹里亜がひとり暮らしを始めて以来、「ちゃんとやっているから、放っておいて」というのを信じてここには来なかった。
こんなことなら、押しかけてでも来ればよかった。
まさか、男と同棲していたなんて・・・

「カルテは見られたんですか?」
「いや、ダメだった。お前こそ、本当に心当たりはないのか?」
「俺にはありません。竹浦先生こそ」
「大樹でいいよ。名字で呼ぶな」
「じゃあ、大樹先生。樹里亜の行き先に心当たりはないんですか?」
「お前が分からないのに、俺が知っていたらおかしいだろうが」
「まあ、確かに」

くそっ。