ブブブ ブブブ
PHSが鳴った。

「はい、救命科竹浦です」
呼び出しは救急外来から。
近くの国道で多重事故があり、複数の怪我人が運ばれてくるらしい。

「分かりました。すぐ行きます」
PHSを切って、ランチを片付ける。

「母さん。ごめん」
「もう、食事もゆっくり摂れないのね」
呆れている。

「仕事だから」
「いいわ。行きなさい」
食べかけのランチをトレーにのせて、私は立ち上がった。

その時、
ガチャン。
母さんが手に持っていたスプーンを落とした。

「どうしたの?」
「う、うん・・・」
額に手を当てる母さん。

「大丈夫?」
「うん。ちょっと目眩がしただけ」
ちょっと目眩って、
「今日検診だったんでしょう?」
「いいから、あなたは仕事に行きなさい」
こんな時なのに、私の仕事の心配をしている。

ブブブ ブブブ
また救急から。

「いいから行きなさい」
「でも・・・」

「樹里先生。行ってください」
近くにいたドクターが声をかけてくれた。
「母さんが・・・」

「いいから行きなさい」
母さんは私を押し出そうとする。

仕方ない、
「父と大樹を、兄を呼んでください」
駆け寄ってくれたドクターに依頼した。

「分かりました。ここは大丈夫ですから、先生は行ってください」
私は目一杯後ろ髪を引かれながら、それでも救急外来へ走った。