「で、お見合いはどうだったの?」
病院の社員食堂で、久しぶりに会った母さんに聞かれた。

「うん。とってもいい人だよ」
「付き合ってるの?」
「時々食事に行ってる」
「そう」

なんだか不思議そうな顔で、母さんが見ている。
まあね、この曖昧な感じは理解できないだろうと思う。
でも、これも山口さんと相談してわざとやっていること。
断われば外野がうるさいし、付き合っても結婚を急かされるだろうし。

「おばさんは話を進める気でいるみたいだけど、大丈夫なの?」
「もう少し会ってみてから返事をします」
「その気があるのね?」
ウッ、さすが母さん。
私がお見合い結婚する気がないのが分かってるみたい。

「ごめんなさい」
ポツリと言った言葉に、母さんがランチの手を止めた。
「どうしたの?」

やはり黙っておくことはできない。

「私、今好きな人がいるの。だから今すぐの結婚は考えられない」
ずっと言いたかったことが、やっと言えた。

「山口さんには?」
「もちろん言ったわ。でも、それでもいいから友達として食事に行こうって」
母さんが驚いている。

「山口さんが何を考えてそう言ったのかは分からないけれど、よくないと思うわ」
「母さん・・・」
私だって、褒められたことをしていると思ってはいない。

「それで、あなたの好きな人には会わせてはもらえないの?」
なんだか探るような視線。

「ごめんなさい」
私だって、出来ることなら会ってもらいたい。
「私の彼よ」って、渚を紹介できたらどんなに良いだろう。
でも、ダメなんだよね。

「会わせられないなら黙っていなさい。大樹やお父さんに知れたら大騒ぎになるから」
確かに。
目に見えるようだわ。

「ごめんなさい」
「謝ってばっかりね」