「高橋先生が同い年って知ってるんですね」
もちろん興味を持って調べれば分かることだけれど、あまり人当たりのよくない渚だけに、ハッキリした年齢を知らない人が多い。

「私、高橋先生のファンなんです」
ええええ!
これには驚いた。

「珍しいですね。アイスマンですよ」
「誰にでも調子いい人よりいいじゃないですか」
まあ、それはそうだけど、

「樹里先生。高橋先生と親しいんですよね」
「親しいというか・・・同期だし。同い年だし。研修医時代には何度も助けてもらったから」
うん。これは嘘ではない。
ただ、同棲していると言ってないだけ。
「私も同じです」
夕飯用に買ったサンドイッチつまみながら、桃子さんが話し出した。

「これでも、高校は進学校で真面目に医学部を狙っていたんですよ。でも2つ上の先輩を好きになってしまって、付き合ってすぐに妊娠して。相手は大学生で、結婚なんて出来るわけないのに」
淡々と、人ごとのように冷静に話す桃子さん。

「産まない選択はなかったんですか?」
非常識と知りながら、言ってしまった。
なんだか、自分の母親と桃子さんが重なって、聞かずにはいられなかった。

「どんなに小さくても命ですから」
「そうですね・・・」
医者の私がそんな質問をしてしまったことが恥ずかしい。

「でも、私も何度か産んだことを後悔しましたよ。どれだけ勉強しても、10代の母で高校中退ってなれば、不良でしょって見られますから」

そうかもしれない。
きっと、大変な苦労をしてきたんだろう。

「看護師になって初めて勤務したのがこの病院でした。でも、やはり新人看護師の中でも浮いていて、先輩にも虐められて、逃げ出しかけていたときに、高橋先生が先輩に注意してくれたんです」
へー、渚が。
でも、分かる気がする。
「だから、ファンなんですね」
「ええ」

フッ。
桃子さんが笑った。
ん?
「いえ、初めて話しました」
「私も、桃子さんがこんなに話すのを初めて見ました」
ははは。
2人で笑い合った。

「今度、一緒に食事に行きましょうよ。同い年同志って事で、お嬢さんも一緒に。ね?」
「はい。ぜひ」

帰りの列車に乗っている3時間の間に、私達はすっかり仲良くなった。
渚のことを話せないのが辛いけれど、良い友達が1人出来てしまった。