7月のある日、私はホテルのロビーにいた。

普段は気ないようなワンピースを着て、ハイヒールなんて履いている。
馬子にも衣装というか、おかげで私も大人の女性っぽく見える。

今日は、おばさんに押し切られたお見合いの日。
あの後も何度か断るチャンスはあったけれど、結局今日を迎えてしまった。

「お待たせしました」
約束の時間よりかなり早く来てしまった私は、オレンジジュースを注文していた。

かわいらしい曲線のグラスに、黄色の液体。
カランカラン。と、氷が音を立てる。
一口、二口と喉を通しながら、なんでここに来てしまったんだろうと、後悔に浸った。

5分ほどして、
「失礼ですが、竹浦樹里亜さんですか?」
スーツ姿の男性が声をかけた。

「は、はい。そうです」
「僕、山口海人(ヤマグチ カイト)です」
さわやかに笑い、向かいの席に腰かける。
「始めまして」
私もペコリと頭を下げた。

山口さんは、じーっと私を見ている。
「何か?」
「いえ、伺っていた通り奇麗な方だなあと思って」
真顔で言われると恥ずかしい。
「ありがとうございます。たとえお世辞でも、うれしいです」
ただ、ありがとうございますと言えばいいものを、ここで余計な一言を言ってしまうのが私の悪いところだ。

しかし、
ハハハ。
山口さんは愉快そうに笑った。