3年前。

東京の大学を卒業して地元に帰ってきた時、私はアルバイトで貯めたお金を頭金にして賃貸のマンションを借りていた。
さっさとしないと大樹や父さんに止められるのが分かっていたから、2月のうちに引っ越しも終わらせた。

そして、春4月を迎え勤務が始まって1週間ほどたった頃、ネットカフェの入り口で渚を見つけた。
顔に見覚えはあった。
同じ1年目の研修医で、あまり話さない静かな人だという印象。
財布を覗きながらネットカフェの前に立つその人に、私はつい声をかけてしまった。

「あの?竹浦総合病院の研修医ですよね?」
「ええ?」
驚いた彼の手から、500円玉が道路に落ちた。

ああああ。

咄嗟に後を追ったけれど、500円玉は側溝の中に消えた。

「ごめんなさい」
「いえ・・・」
「500円、弁償します」
「いいんです。どうせ・・・足りないし」
と、ネットカフェの看板を見る。

1泊3000円。
「ここに、泊まってるんですか?」
「まあ」
「ドクターですよね?」
「まだ給料もらってないから。それに、実家から勘当されたんです」
はあ・・・
なんだか、事情がありそう。

「よかったら、家に来ます?」
なぜか、口をついて出ていた。

驚きで口を開けたままの彼の手を取り、私は自宅マンションに連れ帰った。