「ただいま」
夜になって、私はマンションへ帰宅した。

「お帰り」
遠くの方から声がする。
ん?
部屋の中を見回し、バルコニーで渚を見つけた。

「ここにいたのね」
「ああ」
ビール片手にポテチをテーブルに広げ、渚は座っている。
「なぎさー」
抱きついて泣き出してしまった。
「どうした?また、何か言われた?」
私と親戚達との関係を知っている渚が、ポンポンと背中を叩く。

「お、お見合いを・・・お見合いをすることになった」
「ええ?」
驚いている。

そうだよね。
今こうして、一緒に暮らしている人がいるのにお見合いなんて非常識だと私も思う。

「どうしよう?」
何を期待して言った言葉でもなかった。
ただ困ったなあと、それだけの気持ちだったのに、

「ごめん。悪いけれど、俺には止めてやれないよ。一緒にいたいとは思うけれど、結婚は考えられない」
ハッキリと言われた。
はああ?
私は別に・・・「そうか、それは大変だったね」と言って欲しかっただけなのに。
結婚を迫ったつもりは全くない。

体を起こした私は、拳で渚の胸板を叩くと、
「もういい。私だって、渚と結婚したい訳じゃない」
つい、憎まれ口を言ってしまった。

「そんなに怒るな。樹里亜が嫌いだって言ったわけじゃない。ただ、結婚は誰とも考えられない。俺にも事情があるんだよ」
寂しそうに、ビールを流し込む。

そう言えば、渚は家族や両親の話をしたがらない。
大学卒業時に進路のことでもめて、絶縁状態だとしか私も知らない。

その後、渚が持ってきてくれたビールを受け取り私もバルコニーの椅子に座った。

「怒ってごめん。でも、私もあなたに結婚を迫ったつもりはない。ただ愚痴りたかっただけなの」
「うん。分かっている。それに、俺は同棲しているって言ってもらってもかまわないんだ。隠す必要は無いと思っている。でも、結婚は考えられない。樹里亜の人生を俺の巻き添えにすることは出来ないから。出て行って欲しいならいつでも言ってくれ」
建物に囲まれているにしては綺麗な星空を眺めながら、渚は穏やかな口調で話した。

やはり、渚は自分の素性を話したがらない。
そもそも、私との出会いがネットカフェだった。