ヘパリンとは血栓の出来やすい患者さんが血栓予防のために使っている薬。
血液サラサラの薬なんて言われたりもする。
普段は決して止めることの出来ない薬だけれど、使っている間は血栓も出来にくい代わりに血も止まりにくくなる。
その為、手術や処置の前にはあらかじめ薬を中止する必要がある。
内視鏡で大腸カメラの予定と言うことは、もしポリープや腫瘍があれは切除したり、一部切り取って検査に出す必用が出てくるわけで、血液サラサラの薬は止めなくてはならない。

「ど、どうしたの?」
騒ぎを聞きつけて、担当医の森田先生がやって来た。

「先生、へパリンオフの指示が出てないようですが」
師長が尋ねる。

「ええ?検査6時間前から止めてくださいって、昨日伝えたよね?」
受け持ち看護師の恵子さんを見た。

ああー。
私は思わず天を仰いだ。

「何、止まってないの?なんで?止まってなかったら、検査が出来ないよ。検査の時間にあわせて家族も来るのに、どうするんだよ」
研修医1年目の森田先生。
怒りに任せて文句を言う。

しかし、さすがにここまで看護師を責めるのもどうかと、
私が足を踏みだそうとしたとき、

「何で、私が責められるんですか?先生が指示を出してなかったんですよね。口頭で伝えたって意味ないですよ」
恵子さんが言い返した。

今度は、森田先生が黙り込む。

確かに、非があるのは森田先生だ。
でも・・・
なんとなく釈然としない気持ちでいると、

「それは、違うんじゃないの?」
まだその場に残っていた渚が、口を開いた。