大樹の医局から戻った私は、朝の申し送りの行われている病棟センターの片隅で受け持ち患者のチェックを始めた。

うん、みんな安定している。
今日の午前中は病棟勤務のため、そんなにバタバタすることもないはず。

「では、今日は地元出身のプロサッカー選手の慰問がありますので、人の出入りも多くなると思います。気を引き締めて業務に当たってください」
師長の挨拶で申し送りが終わった。
ん?慰問?
そう言えば、毎年こどもの日の頃に、地元出身のスポーツ選手が病院に入院する子供達を慰問している。
もう、そんな時期だっけ?
確かに、今は5月中旬。
先週はこどもの日だった。

「私、今日来るサッカー選手のファンなんです。小児病棟に行ったら会えますかねえ?」
朝の検温の準備をしながら、若手看護師達は騒いでいる。
慰問と言っても、選手がやってくるのは小児病棟の子供達のところ。
さすがに救急病棟やICUではない。

「仕事の振りして、行ってみていいですか?」
こんな時は医師も看護師もフツーの女の子だ。
しかし、
「コラコラ勤務中ですよ」
師長が注意して、みんな病室へと向かって行った。