翌日、病院に出勤した私は真っ直ぐに大樹の医局を訪ねた。

トントン。
「どうぞ」
声を聞いてからドアを開ける。

「おはよう」
「ああ、おはよう。朝からどうした?」
「あの・・・梨華のことだけど・・・」
大樹の顔つきが変わった。

ジーッと見つめられて、
「・・・」
言葉が出ない。
「梨華がどうした?」

ふー。
息をついてから、
「実は昨日うちのマンションに来て、泊まっていったの」
「何で連絡しないんだ」
やはりそうきたか。

「ごめん」
「父さんも母さんも心配してたんだぞ。昨日のうちに一言言えよ」
「だから、ごめん」
何で、梨華のせいで私が叱られているんだろう。

「まあ、さっき母さんから梨華が帰ってきたって連絡があったけどな」
「はあぁ」
私はポカンと口を空けてしまった。

「あのね大樹。梨華をあまり叱らないで」
つい言ってしまった。
大樹が梨華や私を心配してくれているのはよく分かっている。
ありがたいとも思っているけれど、少し過干渉ぎみ。

「いい加減、お前も帰ってこないのか?」
また・・・
「ごめん」
「ごめんばっかりだなあ」
「・・・」

大樹は肩をポンッと叩いて、
「母さんも父さんももう若くはない。お前が嫁に行く前に、もう一度一緒に暮らしたいと思ってるんだ。分かってやれ」
「・・・」
何も言えなかった。

ごめん、兄さん。
梨華みたいな妹だけでも大変なのに、私みたいな意固地な妹までいて、きっと苦労が絶えないよね。

「ごめんなさい」
「まあ、急いでもしょうがないから。ちゃんと考えてくれ」
いつもの優しい顔になって、大樹が笑った。