数日後、たまたま誰もいない時間に父さんが病室を覗いた。

「1人か?」
「うん。渚はみのりさんと出かけてる」
「お母さんだろう」
言い直されてしまった。
確かにね、彼のお母さんを名前で呼んでる私って非常識かも。
「気をつけます」

父さんは病室のソファーにどっかりと腰を下ろした。

ところで、何の用事だろう。
父さんとはここしばらく冷戦状態のはずだけれど、

「彼はいつまでこっちにいる気なんだ?」
はあ?
何、渚が目障りって事?
ちょっとムッとしながら、父さんを見返す。

「なあ樹里亜。父さんが古い考えなのかも知れないが、男は仕事が一番でなきゃダメだと思うんだ。もちろん色んな生き方があるだろう。それを否定する気はない。でも、お前も同業者だから分かるよな。いついなくなるか分からない医者なんて信用できない。病院に入れば、家族に病人が出ても、目の前の患者を診なくちゃいけない。私の知っている高橋君は優秀で、仕事が好きな若者だった」
うん。
知ってる。
渚は救命の現場が好きだったし、能力を生かせる職場だと思う。

「そろそろ帰してやらないか?」
私は返事ができない。