普段は使うことのない10畳の和室。
私と父さんと母さん、向かい合って渚とご両親が座った。

「お話を伺います」
あくまでも堅い表情の父さん。

すると突然、渚が座布団から降りて両手をついた。

凄く凄く緊張していた私は、その後渚がどう言ったのかハッキリとは覚えていない。
ただ、
「樹里亜さんとお付き合いしています」
「順番が逆になりましたが、子供が出来ました」
「真剣に将来のことを考えています」
そんなことを言って、頭を下げた。

渚のご両親も低姿勢で、
「息子が申し訳ありませんでした」と謝られた。

「お話の主旨は分かりました。が、納得は出来ません。子供が出来るような付き合いならもっと早く打ち明けてもらうべきだったと思います。今更こんな風に来られても、はいそうですかと嫁には出せません」
父さん・・・
あまりの剣幕に、誰も何も言えなかった。

「高橋君。私は君を信頼していた。真面目で仕事の出来るいい若者だと思っていた。がっかりだよ」
渚がうなだれている。

妊娠も、私の家出も、渚が一方的に責められることではないはず。
むしろ責任は私の方にあるのに、ひどすぎる。
私は、これ以上黙っていることができなかった。

「渚だけが悪いわけではありません」

「樹里亜、やめなさい」
母さんが止めたけれど、私は止まらなかった。

「父さん、渚だけを責めるのはやめてください。私だって、父さんが思うような娘じゃありません。この3年、私はあのマンションで渚と同棲していました。平気な顔をして家族を騙していたんです。それでも渚だけを責めるんですか?」
感情にまかせて一気に言ってから、少し後悔した。
父さんと母さんの寂しそうな顔が目に飛び込んできたから。

「樹里亜、やめろ」
怒ったときの渚の声。
「だって」
渚ばかり責められるのは辛い。
「俺たちはそれだけのことをしたんだ。信頼を裏切ったんだから」
だから何も言うなと言ってるんだと思う。
言い訳なんてしないところが、いかにも真面目な渚らしい。
私も口を閉じた。

「高橋さん。申し訳ありませんが、突然のことで驚いています。日を改めていただけませんか?」
母さんが言い、
「そうですね。私達もしばらくこちらにいますので、改めてお話しさせてください」
みのりさんもそう言った。