ピンポーン。
玄関のチャイム。

朝8時半。
こんな早い時間に誰だろう。

「奥様」
玄関から戻った雪さんが、怪訝そうに母さんを見る。
「どなた?」
母さんが聞くけれど、
「それが・・・」
雪さんはハッキリ言わない。
席を立った母さんが、玄関へ向かった。

しばらくして、
「樹里亜」
私を呼ぶ、母さんの声。
私も立ち上がった。

何なのよ。
ヒョコヒョコと玄関へ向かった私の足は、ピタリと止まってしまう。

嘘・・・

目の前に立っている3人。
みのりさんと、色黒の男性。
そして・・・渚。

顔を見た瞬間に涙が溢れた。

「な・・ぎ・・さ」
声にならない声が漏れる。

ウウ、ウウッ。
私はかけ出しそうになった。
すぐにでも、渚の胸に飛び込みたい。

しかし、
「樹里亜」
母さんの声で私の動きが止まった。

「梨華、お父さんを呼んできてちょうだい」
いつになく厳しい声。
梨華は黙って父さんの書斎に向かった。

多分短い時間だったと思う。
でも、誰も何も発しない時間はとても長く感じた。

ツカツカと近づく足音。
父さんだ。
私の横まで来て一旦止まり、私を守るようにもう一歩前へ出た。

「どちら様でしょう」
その威圧的な声色に、父さんも母さんも渚との関係に気付いているんだと確信した。
「突然お邪魔して申し訳ありません。高橋渚の父です。渚とお嬢さんのことで、お詫びとお願いに伺いました」
色黒の男性がそう言い、頭を下げた。

一方不満そうに立ったままの父さん。

「とにかく上がってもらいましょう」
後ろから大樹が口を挟んだ。
「どうぞ、お上がりください」
母さんがスリッパを出す。

父さんは無言のまま、渚とご両親は客間へ案内された。